釦付け の徒然

scylt/ 3月 31, 2019/ 縫製の徒然/ 0 comments

 

今回はボタン付けに関して

scyltの丸縫いの中で、ハンド工程の一つにボタン付けがあります

既製服では、ナポリ系のシャツを除けば、ほぼ全ての釦付けは自動マシンによるものです。今では、マシンによる「根巻き」も、「烏足」も出来るので、ぱっと見で「手による釦付け」の価値観を訴求することは出来なくなっています

それでも・・高級オーダーシャツの端くれとして、手による釦付けの良さを提案し、そのこだわりを紹介したいと思います

まずは、何は無くとも、「ボタンと糸」です

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scyltビスポークのデフォルトで使っているボタンは、以前も紹介しておりますが、「4㎜の極厚の白蝶貝」。

上写真左側が一般的な11.5㎜と9㎜のボタンで、厚みは1.5㎜~2㎜ です

一方scyltは、4㎜×10㎜サイズ 厚みがある分、直径自体は一回り小さくしています。(4㎜×11.5㎜だと、存在感が出過ぎてしまい、大味になってしまうんです)

釦の特徴は、中央に窪みを付けないフラットなタイプ。これは好みの問題ですが、いわゆるナポリ系の「トラッド」な香りとは違う、「contemporary」な雰囲気を出したくて、ミニマルデザインなフラット型を採用している次第です

糸は、小生の一つのこだわりポイントで、「絹穴糸 16号 生成り色」を使用しています

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左側は、一般的なボタン付け糸でコットン風ポリエステル糸です。

性質の違いは、毛羽と撚りにあります。

一般的なボタン付け糸は、毛羽立ちによって撚りが安定し、糸同士の絡まりを強くすることで、耐久性を上げます。

絹糸は真逆です。撚りが甘く、毛羽が無いので、糸の絡まりが弱く解け易い性質があります。

その為、作業効率も格段に落ちます。

ポリエステル糸なら、ボタン11個全てつけようと思えば(足が長くなりすぎるからやりませんが)、糸を途中で変えずに完遂させることが出来ますが、絹糸では、釦3~4個付けたら、新しい糸に変えないと、糸自体がぐずってしまい使えなくなります。(ワックスで補強します)

一方で、絹糸の良さは何と言っても、糸自体の「艶」、これは綿やポリエステル糸の比ではありません

小生は、ボタン付け糸を選ぶ際に、白蝶貝の輝き、極厚4mmボタンがもつラグジュアリーな雰囲気を壊したくなかったので、マットな風合いの「綿系の糸」では満足できませんでした

天然が生んだ美しい貝の輝きに、見合うのは、絹糸の艶感、特に「生成り色」がもつ天然の艶感しかないのではと思ったわけです

また、絹糸は「柔らかさ」も特徴にあるので、着用時のボタン掛け作業に馴染み易いと考えています。

毛羽が無い事による、糸の絡まり=強度を、縫いでカバーさえできれば、と。

後程、説明してきます。

ちなみに、同じく絹糸でも、穴糸ではなく、ミシン用太番糸(写真向かって左)もあります。

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こちらは「グリカン」用に使い分けています。グリカンには穴糸はごつすぎるんです。一概に糸と言っても、様々な種類があり、それぞれの持ち味を持っている訳です。

 

それでは、ボタンをつけていきます

まずは、糸は1本取りです。

綿やポリ糸なら、2本取りでやっていけるので、クロス掛けなら、ボタン穴に2回通せば、4本通った形になり、完成します。一方、1本取りなら、4回穴に通す必要があり、時間は倍かかります。

絹糸のほつれやすさと、ボタンの形状の問題で、小生は1本取りでやってます

s-IMG_20190713_221357まずは、撚りが甘く、ほつれやすい絹糸を「ワックス=蝋」で補強します。糸をコーティングして、ほつれを予防&糸の滑りも良くするわけです

そして、玉結び。これは1重です。2重にすると玉が大きくなり、生地から抜ける事はなくなりますが、根巻きの形が不細工になるので、やりません

IMG_2473次に、本体に針を刺していきますが、この一番最初の一針がポイントになります

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玉結びを生地から約1㎜程浮かした状態にして、そこに針を十字に刺して輪っかをくぐらせて引っ張る事で、

IMG_2475玉結びが本体に「寝ない」状態で、土台の糸留めが出来ます

IMG_2477横から見ると、玉結びが立っているのが、分かります。この立った状態が後で大切なポイントになります

次は、ボタンに糸を通します。ポイントは、後で「根巻き」するときの高さ分、糸を余らせることです。

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この高さは、ボタンの部位によって、若干差をつけます

カフスや台衿は、芯に厚みがある場合が多く、また特にカフスは身頃の釦よりも、つけたり外したりする回数が圧倒的に多いので、着脱作業がしやすいように、根巻きを少し高くしておきます。

シャツにおいて、カフスの留めにくいとか外しにくい程ストレスのかかるものはないのでね。

 

小生の釦付けは、「クロス掛け」です。

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巷では「烏足」が、高級シャツの代名詞と化している傾向がありますが、小生は、単純に「烏足」がデザイン的にあまり好みではありません

中華料理で「モミジ」と言われる、「鳥の足」の料理ありますよね。見た目を苦手な人が結構いると思いますが、小生にとっては、この釦付けがそれと同じです

シャツの真ん中に、「鳥の足」が並んでるって・・・カッコいいのかな・・・?

否定はしませんよ。(笑)

あくまで、contemporaryを目指すブランドとして、デザイナーとしての好みの問題ですから(なので、オーダー時、ご希望の方にはご対応致しします)

なおクロス掛けは、

穴通しは4回ではなく、3回です。下側は1回通し、上側は2回通します。理由は、ボタン上部がフラットなので、4回通すと気持ちこんもりしてしまうを避ける為です。そして、この3回クロス通しは、1本取りの糸でしか出来ない訳です

次は、いよいよ「根巻き」作業

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ポイントは、一番最初に「立たせた玉結び」を、中心に巻いていく事、そして、巻きを強く締め過ぎない事です(緩すぎてもダメなので、ちょうど良い加減が大切なのですが)

5~6回、下から上に向かって、均等に巻いていき、巻きがキレイに行ったら、糸を留めつけていきます

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糸の留めつけは、一番最初の「刺し」が、肝心です。写真では分かりづらいのですが、どこでも刺せばよいわけではなく、「巻き終わりから浮いている糸自体」を貫通して留めることが大切です。これにより、巻き自体がほつれないようになるわけです。

IMG_2487ここで、刺し作業を合計4回根巻き部に施し、糸と糸が縫われて、解けない状態にします。

同時に、先ほどの巻き作業の時よりも、少し力を入れて引っ張りながら、「根巻き」自体を締めていきます。

4回目は下から上に斜めに刺して、あまり糸の距離を稼ぎつつ、玉結びをせず、そのままカットします。逆に言えば、4回刺すのは、玉結びをせずに留めつける為です

釦付けの完成です。根巻きの高さは、約3㎜位でしょうか。

玉結びがどこにも見られず、すっきりと上がっています

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これが合計11個(もしくは12個)・・・

マシンでやれば、1分で終わる作業ですが、手でやれば、なんだかんだ約1時間ほどかかります。

ですが、この根巻きの高さは、機械では出せません。

根巻きをしないマシン付けが殆どですが、高さは1mmあるかないか。

こだわって根巻きをマシン付けでやったとしても、せいぜい1.5~2mmかな・・ この1㎜の差が、違いを生むのです

ということで、白蝶貝との馴染みと美しさを追求した

scylt の ボタン付けの徒然でした・・

 

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