アンティーク 後編
最後のアンティーク研究
もう一つのレディスジャケットを半分解したいと思う
臙脂色の渋いやつ。ラペルの返りの中にタックプリーツがはいる二重仕立てのスタンドカラージャケットという表現が正しいのかな
このレディスボディも割と細い(20代の身体用)のですが、全然前が締まりません・・
当時の淑女がコルセットでいかに締め上げていたか・・うかがい知れます
横から見ると、きれいなバナナスリーブ
外袖の肘あたりにギャザーがかなり入っており、肘の折り曲げ運動量を確保してます
平置きで見てみると、このジャケットも肩~肘にかけてのなだらかなアウトラインカーブが印象的
内側は、こちらはボーンを9本使用、綿裏地にくるんで身頃の縫い代にさらにまつり付けています
写真左側 2本のウェストダーツを開き 表地と裏地を端処理でまつり、その上にボーンを置き、さらに白糸ではしごまつり? こういうまつり方も洒落てますね
また、写真右側 ホックのまつり止めを1本の糸で繋げながらやり、省エネできるところはやってますね。その右側、表側のボタン付けも同様に1本の糸(茶)でつなげてまつっていますが、途中で糸が切れてもすべてのボタンが解けないように、それぞれ留めている所がポイントです
裏側で省エネ仕様すると楽してる感が伝わってしまいますが、美しく仕上がっていればそれもあまり感じられません
アームホールや袖も、表裏を合わせたまつりで端処理、さらに折り返して縫い代を内側本体にまつりで留め付けてます
今ではこうしたところに、ロックミシンを使ったり、折り伏せで縫い代をくるんだりして始末してますが、この当時を振り返って 単純なこういう処理(丁寧だけど)で十分洋服は成り立つんだなと考えさせられます
それでは、こちらを半分解展 しましょうと
まずはボディ。フロントはウェストダーツを2本入れた1面で、後ろを3面に割っています
前回のジャケットもそうでしたが、フロントはバストをふくよかにみせるようにアンダーからダーツを絞るだけにとどめ、逆に脇から背中にかけては、コルセットを下地に、身体のカーブに沿ってできるだけタイトにすると。
パターンを紙に起こすと、こう。
縫い代が無くなると、細さが際だちます・・ フロントウェストで15cm 後ろ3面で13.7cm。ぐるりウェスト:57.4㎝ ・・これは、プロのモデルや中学生のヌード寸くらいですかね・・
背丈は38㎝あり、これは現代の成人女性とほぼ同じ。この時代のイギリスの婦人は、今の日本人くらいの身長バランスだったのかもしれませんね(1体の服で憶測が過ぎますが・・(笑))
また、この時代のジャケットあるあるですが、メンズでもレディスでも肩線が後ろに回っています。大体4~5㎝。
これは、肩線の伸びを防ぐ目的かと思います。
現在の肩線は、肩の真上にありますが、接着芯などの伸び止めテープを貼って補強しています。これは、肩傾斜のために、肩線がバイアス地になり伸びやすくなっているから。
当時は、そのような接着芯はありませんから、地の目をなるべく横地に近づけて伸びを防いだのではないかと思われます。
また視覚的にも、フロントを大きく、背中を小さく見せることが当時の美的バランスだったのではないかとも思います。
メンズでもこの時代のジャケットは、背中に同様のパネルラインが大きく取られ、背中をなるべく身体に沿った作りにしています
現代のジャケットの、腕の運動量に対して、背中には多少ゆとりを、フロントは小さくという考え方とは真逆になります
そして、ポイントのバナナスリーブ
こちらは、前回と異なり、2枚袖。また、ドロップせずちゃんとしたセットインスリーブと言えます。
ただ、やはりシルエットは同じ。ボディ着用時の印象通り、ボディから流れるように肘に向かったアウトカーブが特徴的です。
こちらもパターンを紙に起こして、スペックを取ると分かりやすく
袖山で10.5㎝。前回に引き続き、シャツ袖のそれ。
さらにこちらの特徴は、2枚袖になることで、肘の外袖にギャザーを思いっきり入れている所。
2㎝以上入っておりますが、これは袖自体を割とすっきり細めに作っているので、肘の運動量を別に確保する必要があったのでしょう。AH付け根の袖上部で、内側にラインを食っている(青ペン)のも、袖を太く見せたくないという現れ。
前回のブルゾンタイプに比べ、より構築的でシャープにしたい意図がこういうパターンシルエットからもはっきり感じられます
この時代の服は、すべてオートクチュール=注文服ですから、貴族のその人の好みとTPOに合わせたリクエストに沿って作られます。
また、当時の流行り廃りなどもあるでしょうから、前回のオリエンタル柄(中国柄)ジャカードのブルゾンと、このフロントプリーツのジャケットが、そもそもの嗜好からして異なっているのは当然と言えば当然ですね
ということで、こうして3回に渡り、アンティークの洋服を考察してきましたが
そもそもの目的である パターンや仕様の勉強はもとより、その時代の美意識や考え方までうかがい知ることが出来たようにも思います。
そして単純に、手作業でここまで作るんだというか、手作業で良いんだと。
それは ”ハンドの味” とかいうことではなく、単純に洋服を作る、外側内側をデザインと着用の両面において完成させるために、それしかない方法として手作業で端始末を施し、手作業で縫い付けを行うと。
それは着用をより心地よくするために、デザインをすっきりと見せるために、余計なものはなるべくカットし、簡素で合理的なモノ作りを行う、そしてその効率的な作り=結果”ミニマムで美しい手作業” になると。
昨今は、”ハンドの味”が評価され、それが”デザイン”と化しているトレンドがありますが
小生のような独りでモノ作りをしている人間にとっては、手作業とミシン作業は同等。
それぞれ縫製手段の一つとして、服という完成に対してより効果的なほうを選べばよいのかなと改めて感じた次第でした
それでは~。