アンティークから研と学 ~前編~
あっという間に、3月半ば・・。ブログ更新の滞りの順調なことww
インスタで短文ながら文筆してる故、書への欲求が満たされ、逆にブログから
遠ざかってしまうという現象でしょうね・・
それはさておき、今回のブログは、
最近は自身発、またはお客様の依頼も含めて、ライトジャケットへの取り組みが増えてきているので改めて、パターンと縫製において、引き出しを増やしておきたいなと。
昨今のビンテージ古着、ないしはそのリプロデザインのトレンドから、生地、パターン、仕様へのより深い理解と追及、そして再現が求められており、表層だけなぞったようなものでは「あんた・・背中が煤けてるよ・・・」(by哭きの竜)と牌を突き付けられる厳しさ。
そんな世の状況もさることながら、小生自身、シャツ~ジャケットへの取り組みの中で、近年ずっと「袖パターン」を改めて勉強しなおしておきたいと思っておりました
特に、ビンテージアイテム中心に散見される「バナナスリーブ」。メンズジャケットの「前振り袖」の大元ですね
ということで、早速e-bayで アンティークアイテムをポチってリサーチと。
では、前置きを終えて徒然。
バナナスリーブのパターン研究の前に・・・前編として
まずは、20世紀初頭 英国軍隊の正装ユニフォーム:ウェストコートとパンツ(セットではない)
英語タイトルでは、Rifle regiment(銃連隊) officer’s mess dress waist-coat /
Savile Row officer’s parade mess dress uniform trousers (mess 夕食/食堂の意味→dinner 夜会、正装)
ベストの素材は、綿のフェルトのような微起毛で微光沢(ベルベットではない)で、背中は綿ツイル。
裏地は綿ローンが使われ、胸の中央あたりには、縦にタックがはいり「キセ」(裏地のゆとり)を入れています。そしてこの裏地の縫製は、ミシンによる縫い繰り返しではなく、AH端、前端とすべて細かい手まつりのよって乗せ付けられています
また、ショールカラーのラペル裏には裏地の黒ツイルが使われ厚みを軽減する工夫が施され、端には綺麗な星留めハンドステッチでラペルの浮つきを抑えると。
さらに、画像では分かりづらいが・・・ショールのラペル襟、下のラウンド部はめくれ上がらないように5㎝ほど身頃に留め付けられているのも、気が利いています
パターン的には、肩傾斜がかなり強く、後ろ首に向かう登り急傾斜が特徴的。僧帽筋の厚みが故か、美的デザインが故か・・?小生も着用してみると、身幅は合っていましたが、この肩傾斜が合わず、首元が浮いちゃいましたね・・
そして内側の芯は・・ 太糸中肉のリネン素材。
当時は、コートやジャケットに毛芯が既に使われていた時代でしたが、ベストにはリネンで十分ということでしょうか・・
ただ、割としっかりしているこのリネン芯。
というのも、内側で見えない芯材なら、リネンはナチュラルカラーで良いはずなのに、これだけダークブラウンるというのはなぜだろう・・と?
泥染めやオイルドのような、チンツ加工(熱で圧縮し表面を潰す)のような・・・そんな表情。
これは経年の汗や汚れの蓄積によるものなのか? もしくはタールや油といったものを塗り込んで芯自体を固く丈夫にしようとしたのか?
真実はわかりませんが、しなやかかつ腰があり、ベストの芯として最適に感じます。
また、注目すべきは胸上部に”切り込み”が入っているポイント
ジャケットならば、ラペル裏でダーツ処理(まつり閉じられてる)により胸の立体感とラペル返り線の優雅なラウンドを出すところですが・・、一方、”切込みのみ”ということは、胸の厚みや胸を張る動きにストレッチ的に対応するためかと思われます
また、縫い代身頃へのしつけ止めや、縫い代の均一な短冊カットと、ここでも仕事の丁寧さをうかがわせます(なぜ、しつけ糸が緑から白に途中で変わっている・・謎(笑))
また、裾部の芯には、ストレートテープがまつりつけられており、これは裾のフロントから脇に向かって上がるラインがバイアスになりるため、伸び防止目的
テーラーにとっては当たり前と言えることでしょうが、やはり仕事がいちいち理にかなっています。
つまり、こうした細かい仕事の蓄積こそが、100年を超えてなお形を保たせうる技術なのだと感じます
一方パンツはと言えば、
素材は、ウールダブルクロスで厚みのある2wayナチュラルストレッチで動き易く、頑丈そう。
当然時代的にボタンフライのサスペンダー仕様。
ウェストベルトはなく、上端はパイピングの軽い仕様で、脇のレッドテープの挟み込みもあり、ラインデザインがよい感じ。
脇や後ろにポケットない代わりに、フロントにはコインポケットがついています
内側をひっくり返すと、縫い代には切りじつけ(仕付け糸を使用したテーラーの裁断法)がそのまま残り、赤のラインの挟み込みには、仮留めの並縫い白い糸がつけたまま(笑)
Savile Row 仕立てということなのか・・ いや、仕付け糸は後で取ろうよ・・。
ハイウェストの後ろ中心は山で割れ形に合わせて変形のマーベルト仕様
股ぐりの仕様は、現在なら「シック」を十字の縫い代の重なりに被せて見栄え的に隠すのと、縫い代自体のダメージを守る役割だが・・
このパンツは縫い代自体は晒す仕様、前の股繰り部に別布をかませて補強用。ここら辺は、考え方の違いでしょうか・・ 縫い代の端始末はほぼきりっぱなし、ファスナー回りだけジグザクカット。ダブルクロス素材なので、まぁそんなにほつれない、ということでしょう。
現在のテーラーでもそうですが、縫い代の幅は、前身は少なく10ミリ以下、一方後身は大きく40~50ミリと、体型が変わってもお修理できるようになっています
ではディテール
ベストの背ウェストバックルが粗削り先鋭なピン。ホールがなく、生地にぶっ刺して留める仕様。軍隊らしい(笑)
パンツの裾には、靴の底を通して留めるレザーのバックル付き。(ボタン仕様タイプもある)
軍服のジムナスティックな雰囲気と、フォーマル的な品格と共存しているところが面白いですね
総じてパンツは、ベストに比べると仕事は大雑把な所も散見。軍隊用のボトムとしては、より消耗品に近いアイテムとしてこれくらいで十分という所でしょう
つぎは、レディスのタックデザインのブラウス
時代的にはほぼ同時代、18世紀末~19世紀初頭。ヴィクトリアン~エドワーディアン時代
まだコルセット着用が当たり前の時代、レングスがウェスト丈もそれが故。
大きなタックの間に、ピンタックが数本入り (貝ボタンはこちらで付けました)、ウェストでタックを絞り、フロントに膨らみをもたせるデザイン。
衿はデタッチャブル仕様で、取り外しタイプ
袖山にギャザーと、袖口カフス(突合せのカフリンク仕様)にも部分ギャザー(scyltもここから)で、身頃のヴォリュームも相まってザ・ヴィクトリアンな雰囲気。
レディスのブラウスは、現在でも袖カフスの傾斜がメンズに比べて、前に向かってかなり傾斜をつけて上がっていく。
肘で曲がる後ろの袖丈が、前に比べて長く差寸を付けるのですが、
小生はここまでの差寸は付けていない・・今後はもうちょっとやってみようかな・・
ということで、
今回は前編としてデザイン、ディテールを中心に紹介してきました。
後編では、バナナスリーブ含めて、よりパターンに触れていきたいと思います
後編に続く