レディスシャツ・パターンについて
今回は、先日ありがたいことに
ご夫婦で白シャツのオーダーを頂き、その際に作成した
レディスシャツに関して、またレディスシャツパターンに関して 徒然しようかと思います
以前にも触れた事ありましたが、小生はレディスブランドでずっと働いており、
少なからず、レディスウェアに関する知見の蓄積があり、
いわゆる巷の紳士中心のオーダーシャツ屋さんに比べれば、
レディスウェアデザインにおける感性や、女子の嗜好性などへの理解が
”新しく=updated” されていると自信はあります
一方、昔ながらのシャツ業界にとっては、
スーツインナーとしてのメンズ・ビジネスシャツを作ることがずっとメインのお仕事
お客様はもちろん、作る側も男性が中心であり大半です。
当然、レディスデザインに関する知見や感性が磨かれる土壌がそもそもありません・・・
また縫い手の職人さんも高齢化がすすみ
新しいモノ(=デザインやパターン、シルエットに至るまで)への対応がすすんでおらず
そもそもデザインどころか、新しい世代の身体への変化にもついていけてないのが正直な状況です
実際、先日代々木上原のイベントに小生が出展していた際、
とある高齢女性の方から
「身体の変化に伴い、オーダーシャツ屋を利用しているのだけど、
気に入ったデザイン、シャツに仕上がらなくて困っている」
という相談も頂きました
(こちら後日、改めてご連絡を頂き、シャツ作成のオーダーを頂いた次第です)
一方、レディス服飾業界(既製服)では、
デザインにおける目まぐるしいシーズントレンドの移り変わり、多様性は言わずもがな
既製服作成の大元になる”ボディ”自体もここ近年
ボディメイカーも新しい統計数値を取り直し、世代ごとに新ボディを作成・販売が続き
常に、最新情報へのアクセスは怠りません
過当競争にさらされるファッション業界ですから、顧客満足度を高めるために
デザインから、パターン、サービスに至るまで、最善を尽くします。
こうしたファッション業界の薫陶を受けてシャツ業界も最近は、
鎌倉シャツ(既製服メインですが)さんなど、新世代のシャツ屋が台頭し、
内部の人材にも積極的に女性を採用し、今っぽいトレンドライクなデザインが店頭ディスプレイに並ぶ事も増えてきました。
とは言え
実際の消費者、お客様目線では シャツ屋=男性(中年(笑)) のイメージは未だ払拭されておらず、
女性マーケットの中で、
シャツメーカーの存在感は、未だ「ファッション」から大分隔たりがあるように感じれらます
どうにか、そのイメージも変えていかなければという所ですが・・・
一昔前、海外ブランドで、そこを上手くやっていたのがメーカーがありました
“naracamicie ナラカミーチェ(伊)”
カシュクール orフリル&ギャザー、褐色の肌×白シャツ:ラテンセクシーのイメージ(古い(笑))
や Anne fontaine アンフォンテーヌ(仏)
日本だとフリルブラウスの印象強い おフランスなのでナラカミーチェよりも上品、育ち良い系のイメージ
海外では、女性もカッコよく、シンプルな白シャツ
もしくはエレガンスにデザインシャツを着る土壌があるので、
そこに特化したブランドが成立し、日本にも進出&活躍していたわけです。
最近はミニマルデザインの潮流、ファストファッションの活躍に押され
この2つのブランドも失速してしまいましたが、
今でもある一定のファンと認知度を持ち、レディスシャツ購入時に頭に想い浮かべる人も少なからずいるのではないかと思います(特に海外)
そういう意味では、日本では 鎌倉シャツさん含め、シャツ専門メーカーとして
まだまだ圧倒的にレディスマーケットに弱い!!(逆を言えば、売り上げ増を期待できる)
素敵なデザインを提案出来てない、
そもそもパターンから古くてシルエットがイケてないメーカーすらある
という課題を抱えている訳です
そんな哀しいレディスシャツのマーケット状況ですが、
オーダーシャツの観点から今回はレディスシャツに関して、もう少し深堀り。
パターンにも踏み込んでみたいと思います
今回頂いたご夫婦のオーダーにおけるパターンの紹介になりますが、
今回は基本、”お揃い”のデザイン、白シャツ という所がポイントでしたので
旦那様のご希望に合った、3面タイプのシャツ。
こちらにおけるレディスパターでンの紹介になります
では早速、 まずは 結果から
素材は Thomas mason 120/2 portland 120 scyltの定番白生地
旦那様 約177~8㎝ 奥様は 約162~3㎝ お二人共細身でしゅっとしたタイプ
デザイン的には、旦那様の雰囲気に合わせて、衿を”大きめなセミワイド”、
奥様にも同じバランスの衿型で作ったシャツになります
レディスパターンはこんな感じ
(後身のパネルラインをどこでとるかで、かなり悩んだ跡がみられます(笑))
まず、メンズとの違いは、「胸ダーツ」の有り無しです
巷のオーダーシャツ屋がレディスシャツを作る時、このダーツの無いメンズ仕様にしている所も
あると聞きます。
とは言え、このダーツ有り無しは デザイン、シルエットのバリエーションの一つであり、
どちらが正解という事ではありません
ただ、ボディにフィットするようなシャツを望まれる場合には、ダーツを使う事で、より女性らしいカーヴィなシルエットで、立体感を表現することが出来ます
パターン上に「ダーツ展開」と記載有りますが、これはファッションの専門学校で一番最初に倣う事ですね
女性の身体は、男性に比べて、バストが凸、ウェストが凹み、ヒップが凸 になりますから
ボディフィットした服を作ろうとする場合、
バスト~ウェスト~ヒップ に ダーツと呼ばれる「生地余りを削る」作業が入ります
そのダーツをウェストにそのまま使う事もあれば、
その分量をバストトップから回転「ダーツ展開」という技術で、胸ヨコに移動させる事もあります
この展開作業は、ウェストにシーム(縫い目)を入れずにすっきりさせるというのが主な目的です。(写真では、たたまれる前の図が残っている状況で、製品には存在していません)
今回はウェストダーツがヒップの途中で終るので、ウェストより上と下で別々にダーツをたたんで脇に移動させ、最後微調整してます
もう一つ、レディスパターンの特徴は、
パターン上では、ウェストラインが前から後ろにかけて斜めに上がっている所です
これは着用者の身体にもよりますが、傾向としては
女性の身体を横から見て、身体ではほぼ横一直線にみえるウェストラインですが
首の根元を始点にウェストに向かってタテ線を辿ると、
バストの凸があることで、前の方が後よりタテの距離が長くなっている事が分かります。
つまり
パターン上では、ウェストラインが斜めになるような調整が求められる訳です
これは、仮縫いしていく中で微調整していきますが、そもそもの考え方としても、
前からパターンを引いていくなら、後ろに向かってウェエストラインを上げるイメージ
後からパターンを引いていくなら、前に向かって、下げるイメージを持つべきかと思います
また、実際この作業はバックスタイルを良く見せる=ヒップを上げて足を長く見せる効果もあるので
味付けとしても必要な技術かなと思います
下の写真は、前身のウェストラインを左右で違うバージョン(左身が下がってる)
印象だけをとっても、前身に関してウェストラインがあがっていると
「ヤング度」があがり、(子供服って、高い位置にギャザーとかありますよね)
一方、ウェストラインを下げた左身は、より落ち着いた「レディ」になります。
ちなみに
さらにパターンを専門的に掘り下げれば、
メンズであれレディスであれ
バックのネックポイント、ないしはCBポイントを、前身のネックポイントに対してどういう位置関係で置くかで、このウェストラインのありかたも変わってきます
また、この前身と、後身のネックポイントの位置関係の「段差」「差寸」そのものが
着用者が 「猫背タイプ」か、「反身タイプ」か(パターンで言えば、前後の距離の違い)
衿ぐりのフィット感、肩回り、ひいては全体の着用感の分かれ道になり、
ウェストライン以上に大切なポイントになります
今回の着用者の奥様は、背筋から首までの伸びたかなり姿勢のよい反身寄りタイプ(でも前肩)
バストを除いた前後差としては少ない=背丈が短い → ウェストラインが斜めになりやすい
という事が採寸時に、予測していくわけです
なお
このタイプは背中~ウェストがクれて、ヒップ凸へのカーブがよりきつくなる傾向があるので
バックのウェストラインが、事実より上にある方が、ヒップへのカーブラインも楽になっていきます
まぁ、実際の所は、予測以上に苦戦する結果となりましたが・・・(泣)
最後にもう一つ、レディスとメンズの違いに関して
「袖」も挙げられます
ただこれは少し個人的なシャツシルエットの好みも入っているので、参考程度に。
今回 の メンズとレディスの袖パターンがこちら
上と下のパターン どちらがメンズで、どちらがレディスか分かるでしょうか?
正解は・・(scylt的な正解なだけです)
下がレディスです。写真の縮尺も違いますが、シルエットとして
レディスの方が袖山を高くしています
それはつまり、袖巾(付け根部)を細くしたいという事です
(袖口に向かうシルエットは、袖口のギャザー分量と言うデザインの領域)
メンズに関しては scyltでは、袖巾を細くしようという意図はなく、
イメージ的には、 ボディをタイト × 腕は太く 位のシルエットバランスが
セクシーかなと思っていますし、
ボディを細くする分、袖はある程度太くして 肩・腕回りの運動量を確保する目的もあります。
他のシャツ屋さん的には
スーツインナーとしてのシャツの考え方から、スーツの袖の中で収まりの良い
カマ底=袖下がなるべく上位置にあり、袖巾も細い方を求める声も多いと思いますが
これは、好みと考え方の違い、という事で。
ただ、レディスとなると、女性の着用シルエットの好みとして
「腕は出来るだけ細く見せたい」方(日本人の傾向?)が多いので、
袖山を高くし、袖巾の細いパターンにするわけです。
(実際、レディスの既製服、ブラウスのパターンの袖山は、ジャケット並みです。その代り、素材はストレッチだったりします)
また、パターンだけでなく、袖山のいせ=ギャザーの処理の仕方も
メンズとレディスでは、分かれます(これもデザインの一つなので、正解不正解ではありません)
メンズの袖山ギャザー(そもそもギャザー無い方が一般的ですが(笑))は、
アームホールの縫い代を身頃側に倒して叩きつける(scyltはまつり縫い)のが通常です
もちろん、レディスでも、「シャツ」というカテゴリーでは
こちらの仕様が普通ですが
よりレディスライクな 「ブラウス」というムードを出そうとすると、
アームホールの縫い代を袖側に倒し、ギャザーをより立体的に魅せるのが一般的です
身頃側に縫い代を叩くステッチやまつりが無くなり、縫い代が袖側に来ることで
ギャザーが立ってくるわけです。
女性からしたら一般的な仕様ですが、メンズにとっては言われて初めて分かる人も多いのではないでしょうか?
縫い代の倒す方向だけで、メンズと、レディスのムードが逆転する
服作りの面白い所です。
ここで、
「なるほど~。袖側に縫い代を倒すと レディスになるのか~、初めて知った~」
と言う人もいるかと思いますが
実は、それは違います。
この縫い代を袖側に倒して、袖山を立体的にする仕様、
メンズでは「スーツ」のジャケットが基本この仕様です。
スーツのジャケットには、この肩先の袖山側に、さらにユキ綿というスポンジ布が入り、
立体感が潰れないように補強しています
さらにそこから
逆に、ジャケットでも 「ナポリジャケット」となると・・・
「雨降らし袖=マニカ・カミーチャ」(以前もブログで触れてますね)
マニカ=袖、カミーチャ=シャツ
これはジャケットなのに、「シャツ袖」にする
袖の縫い代を身頃側に倒して袖山をあえて潰し、雰囲気を軽く、
という逆転デザインがうまれたりするのです
今流行りの アンコン系ジャケットの元祖ですね
という事で、なぜか最後はメンズの話になってますが・・・
あまり語られることの無い
レディスシャツ・パターンに関する徒然でした・・
という事で、今回はレディスシャツに関しての徒然でした