第二章 パターン ~前編:Borrelli とBarbaの違い~
二章 パターン 製図
第二章は、シャツ・服における最も重要なポイント:パターンについて書いてみようと思います。
まず、パターンオーダーには、製図作業はありません。お客様の採寸データ:±❓cmを既存のパターンデータソフトに入力すれば自動的にパターンが出来上がります。
現在、雨後の筍のように、パターンオーダーサービスをできるブランドや店が、路面・ネット含め至る所で出てきていますが、こうした背景には、このパターンオーダーシステムを有した、専用オーダー工場の存在背景があります。大きめの工場にもなれば、スーツでさえ1日300着以上縫い上げるパワーを持っており、店やブランドは、こうした工場が抱えている「工場パターン」を利用して、パターンオーダーサービスを展開しているわけです
勿論、大手メーカー、大手百貨店にもなれば、自社工場、自社パターンを開発し、独自に生産している所もありますので、十羽一絡げ出来るわけではないのですが、少なくとも最近新しく出てきたようなお店や小さなメーカーは、殆どが前者の例と言えます。
その意味で、服の知識やノウハウがなくても、必要物さえ準備さえすればPO(パターンオーダー)サービスは誰でも始められる一方で、出来上がる製品に関しては、どこのお店で頼んだとしても、採寸調整の違い以外に製品の顔はなんら変わることはない、という事になります。つまり・・・POという入口(サービス)は店、ブランドによって異なるものの、出口(製品の形)は同じになってしまうという事です。それゆえ、現在流行っているPOでは、その「サービス」を競いあう戦いに終始し、「服」自体はおざなりにされている傾向があると言えるのです。
前置きが長くなってしまいましたが・・・、
フルオーダーの場合、scyltの場合は、もちろんこのパターンオーダーではありません。採寸を元にした、お客様の本当のオリジナルパターンを製図から起こします。
製図の始まりは、四角い枠と数本の横線を描くことから始まります。外枠は、身幅とレングスを表し、中央に引かれた数本の横線はバスト位置、ウェスト位置、ヒップ位置を表します。この最初の数本の軸線が、シャツを支える最も大切な骨組みになり、そしてここからデザインが既に始まっています。なぜなら、外枠はサイジングを決める構造線であり、そして横線は、シャツを美しく着てもらうためのバスト・ウェスト位置の設定線になるからです。それゆえ、その作業は、採寸されたデータをそのまま移す死んだ線ではなく、意図的に調整された生きたデザイン線となるわけです。
骨格線が決まると、次は「襟ぐり~肩」にかけてパターンを引いていきます。「シャツは首で着る」の言葉(自称ですが・・・)通り、製図においても、この首周りからパターンは形作られていくわけです。
そして、パターンメイキングにおいて、この肩周りは、大変重要なポイントになるので、メーカーの考えや特徴、そして違いが現れやすい所とも言えます。
例えば、シャツメーカーの最高峰 Luigi Borrelli のシャツは、もちろんパターンも独特です。
彼らの肩周りの特徴は、、、①「肩幅」は身幅に比べて、狭い設定で、他ブランドに比べ2㎝位中に入っています。一方で、②身幅は広く、アームホールを寝かせるように斜めにつなげていきます。そして、③袖に関しては、ジャケットのように袖山を高くしギャザーを多め(好き嫌いが分かれるプリンス・パフ)にすることで、肩・腕の運動量をゆったりと確保しています。これは、ジャケットの「下着」としての本来のシャツの在り方に対する彼らなりの解答であり、また、今っぽいタイトなシルエットを目指すのではなく、昔ながらのクラシカルスタイル:ゆとり=ブラウジング=ラグジュアリーという貴族のエレガンスを目指すようなブランドならではのパターンニングという事ができます。(※着用のBorrelliの写真は、カスタマイズして細くしているのでブランド自体の元シルエットではありません、肩のパフ感は注目です)
逆に、同じナポリでも、BARBAは正反対です。肩幅~背幅を広めに取っています。バルバの最たる特徴は、背ヨークパーツ自体にギャザーを寄せ、一般的に入れるはずのその下の後身頃本体にはタックやギャザーを入れない、という独自の仕様です。(おそらく世界でも類を見ないでしょう)そのため、僧帽筋周り自体に丸みを帯びたゆとり=余裕があり、それにより肩・腕の運動量を確保しているのです。バルバはボレリよりもシルエットがタイトなので、日本人には特に人気がありますが、実はこうしたパターニングによって、運動量とシルエットのバランス、そしてより体型をシャープ(逆三角)に見せる工夫が施されているのです。運動している方、鍛えている方などで、僧帽筋周りが発達している人には、このパターンニングは、ベストかもしれず、僕自身もお客様によっては活用させてもらおうと思っています。
このように、同じナポリでも全く考え方の違うパターンメイキングがあり、それぞれが、その独自の根本技術において圧倒的なレベルの高さを誇っているわけです。
そう考えると、シャツメーカーを評価する時に、ともすれば、運針の細かさ、ハンド工程数の多さなどを比較する「蘊蓄視点」が主流になりがちで、それはそれで一つの理屈ではありますが、、、実はそれ以上に、その土台にあるパターニングにこそ、メーカーの考えやアティチュードが現れている事も、見過ごしてはならないポイントではないかと思っております。
肩回りの重要性の話から、メーカー比較、シャツの評価論にまで発展してしまい、脱線なのか、本線なのか微妙なところですが・・ それくらい肩回りというのは「ポイント」という事はお分かり頂けたのではないかと思います。
もう少しだけパターン解説をしようと思いますがブログが長くなり過ぎるのも、なんなんで
パターン後編に続く