「白衣」の制作 前編 ~JKとSHパターンの違い~
今回は、シャツではなく「白衣=ドクターズコート」の納品です。
少し前に中高時代の後輩から、医院開業を迎えるにあたり、シャツではなく「白衣」を作って欲しいと依頼があり、制作する事になりました。
ウールのテーラーとなると、さすがに断りますが・・
FBなどでも写真をアップしておりますが、こんな感じになりました
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今回のブログはその制作背景を徒然と。
まずはパターン製図から解説
折角なのでシャツ屋の戯言として、シャツパターンとジャケットパターンの比較をしてみようと思います
参考文献もご紹介
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服部晋先生、皇室御用達のテーラーです
元々は、シャツオーダーの勉強の為に購入していた参考書ですが、
シャツパターンの専門書などは殆ど無いので、やはり
スーツに関する専門書になります
身体の分類、しわの原因、補正対処法、パターン製図 に至るまで、
丁寧な解説が盛り込まれてありますが、今回も色々と参照させて頂きました
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かなり古いオーダースーツの補正教科書
シャツであれ、ジャケットであれ、
パターン制作の肝は、「身体と布の整合性」です。
構造線のバランスをとり、「しわ=不整合」を解消してあげればよい。
単純命題なのですが、
ただその「しわ」こそが、様々な複合要因から出てきたりするので、
なかなか一筋縄ではいかないのです・・
それはさておき
シャツとジャケットのボディパターンの違いの一つに、「アームホールのくり(カーブ)」が挙げられます。
ジャケットパターン(下写真)
前胸への「くり=アームホールのカーブ」がバストトップに向かっている事が分かります。
これは、袖・腕が前に振れ、動きに対して、アームホールが脇に刺さる事を防ぐ為です
(特にジャケットは、アームホールの縫い代が立っているので、このカーブは必須になります)
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ジャケットパターン
一方、
一般的な既製品のシャツパターンの場合、
袖のくりはもっと浅く平均的な楕円を描きます
アームホールの縫い代をステッチで始末するので、そのステッチがつれない程度のカーブが求められる訳です。
袖付けを「脇身裾からカフスまで」、一気に縫う縫製方法も、このパターンに適しています。
つまり、大量生産を可能にする効率的なパターンニングです。
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一般的なシャツパターン:ネットより画像拝借
ではこうしたパターンは着心地が悪いかと言えば・・?
身幅やアームホールを大きめに設定することで脇に刺さることを防いでいるので
着用感は問題ありません。
ただし、ジャストサイズ、スリム目のボディを選んでしまうと
脇に刺さるしわや、着用感が出てくると思います
それに比べて
scyltのシャツは、この「前胸へのくり」をより、ジャケットに近づけています。
それは、スリムなシルエットでも、運動量と着心地を損なわない事が目的であり、
そして、アームホールを「手まつり」にしている為、きついカーブの始末が可能であるからこそ事出来るわけです
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(※デザインによって、アームホールをステッチにすることもありますが
その時には、アームホールの製図を変更します)
また、
袖パターンの形状も、ジャケットとシャツでは大きく違います
基本的にジャケットは、二枚のパーツを接ぎ合わせた2枚袖
シャツは、1枚の布を接ぎ合わせた1枚袖
この2つの違いは、先ほど少し触れた
腕の前のフラシ、動き、そして素材に関係しています
ジャケットの袖は、肘を支点に緩いカーブを描いています
これば、人間の腕の自然な状態に沿ったカーブで、
ウールのスーツの場合は、アイロンワークも使ってこのカーブを馴染ませます
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逆にシャツは、
腕の運動量を優先し、袖巾をしっかり確保する事が求められるので
2枚接ぎにして、肘や袖口の分量カットするパターニングは必要ありません
(2枚袖のシャツもよくありますが、袖を細く見せる「デザイン」と考えるべきかと思います。個人的にはあまり好きではありません)
素材も軽く、アイロンワークも効かず、袖自体がカフスの重さで真下に落ちるので、
カーブを取ることにあまり意味がありません
でも
そこら辺を上手にこなしたナポリ系シャツブランドが一つだけあります。
サルバトーレピッコロです。
1枚袖ながらも肘にダーツを入れ、袖巾の確保と前へのカーブを両立しています。
構造的に理屈が通っていて、なおかつブランドのアイコンにもなっている。
こういうブランドこそ、リスペクトされるべきかと思います
という事で、今回は白衣制作の背景にある
シャツとジャケットのパターンの違いに関して触れたところで、長くなってしまったのでいったん終了。
実際の商品に関しては、後編に続く