良いシャツって2022?~蘊蓄を斬る~
今年最後のブログ投稿ですね。今更ながら、基礎の縫製技術に関する私見。
元々は、インスタ用に作ろうとしたテーマでしたが、書いているうちに徐々に盛り上がり、文章が長く、より根本的な話になってきたのでブログで披露することに。
以前も書いたことですが、シャツ縫製の蘊蓄は幾つかあります。
良いシャツ、高級なシャツの見分け方に、運針の細かさとか、折り伏せ縫いの細さとかがよく上げられますが、果たして本当にそうでしょうか?
ある一面では、正しくある一面では、正しくありません。
それを今回は、改めて具体的な縫製方法の観点から解説したいと思います
シャツ縫製の基本の基、「折り伏せ縫い」に関して。
折り伏せ縫いは、シャツにおいて、前身と後身を接ぐ脇と、袖、そしてアームホールを縫製する時に使う縫い代を内側に隠す縫製方法を指しますが、
縫製蘊蓄で言えば、折り伏せ縫いは細い方が難しく、高級であると言われてます
では、その折り伏せ縫いの2通りのやり方 を解説したいと思います
下の写真が、2つの折り伏せ縫い(表面)、3mm巾(左側) と1.5~2mm巾(右側)です
その縫製方法を見てみます
A:極細と言われる 1.5~2ミリ幅 (右側)
1: 後身縫い代2~3mmと前身縫い代6~7mmを外表で重ね、6ミリ側を指で折りながら端を1~2ミリ引っ掛けて縫う
2: 縫われた際を内側に折りながら、折山端をたたいて完成 (表からでも、裏からでもステッチ可能)
B:折り伏せ縫い3mm巾
1: 後身縫い代3mmと前身縫い代7mmを外表で縫い合わす
2: アイロンで7ミリ側を内に折る
3: 折山を裏からコバで叩く(下糸側が表ステッチに出るのが嫌なら、表から叩く)
この2つの縫い方の違いは何か?
単純に手順の数で分かるように、1.5~2ミリの方がアイロンを使わずにより短時間で細巾を作れます。
縫う方からすれば、より効率的かつ、より美しく蘊蓄好きの満足度を上げることが出来ますね ww
では、もう少し突っ込んで中身を見てみます
1.5~2ミリ細巾の方は、
最初に1~2ミリ引っ掛けて縫った部分が、折り伏せの袋の中で倍の縫い代として重なっています。
引っ掛け部分を出来るだけ少なく、キワを抑えるのがこの縫い方の大切なポイントなのですが、
一方、3ミリ巾の方は
折り伏せの袋の中には、アイロンで折った1枚の縫い代だけ、重なりはありません。
つまり、この縫い方では、細幅の方が折り伏せ縫いが縫い代の量の分、「固く」なるのです。
事実、2つの出来上がりを並べた写真を、しっかり見てみると
右側の細幅の方が、少しこんもり盛り上がっているのが分かります、縫い代の重なりが故です
素材自体が薄い(糸が細い)、または織り密度少ないローンなどには、
この細巾の方法でも十分ですし、少しこんもりした雰囲気も良い感じです。
ただ逆に、糸密度の高いポプリンなどでこれをやると、縫い代は顕著に固くなり、着心地に影響します。
その上、運針を細かくしようものなら、細幅の中で、縫い代と上下の糸が密集し、折り伏せはさらに固くなります。
さぁ、これでも、
折り伏せは細ければ細い程、運針は細かれば細かい程
優れた、高級なシャツだと言えるでしょうか?
何をもって、”優れた”、”極上” と言うかは人それぞれですが
日本人は、海外の人に比べて、素材のタッチ、柔らかさを好む傾向があります。
その意味で、着心地を重視するのであれば、極論
運針は少なければ少ないだけ良く、折り伏せ巾は細過ぎない方が縫合部は柔らかく仕上がり、着心地は良くなるのです。
現実的な所で言えば、素材によって使い分ければ良いと思います。
例えば、FRAY が、あの運針を極上のモノとさせるのは、素材がカルロリーバやアルモなどの軽やかさがあるからこそ成立するのだと言えるわけです。
ということで、今年最後のブログは、基本に戻って、シャツ縫製を徒然してみました
良いお年を~