Luigi Borrelli 解体からのシャツ考察 中編 身頃
今回は、Borrelli のボディに関して調べてみたいと思います
まずは、前回の衿編の接ぎ部にあたる襟ぐりから。
襟ぐりの重心に当たるパーツ、「ヨーク」は、1枚タイプ。背中心で接ぐスプリットヨークタイプではありません。
ヨークは、1枚パーツか2枚接ぎか、どちらを採用するかもメーカーの考え方に依りますが、判断のポイントはデザイン、生産効率、それと着用感と総合して判断されます
まずはデザインから。
シャツは、ストライプ柄が多いので、borrelliのように、「横縞」を背中に入れるか、下写真のようにスプリットヨーク:「山柄」を背中に入れるか、どちらが良いかの判断です。(下の写真は、s c y l t)
次は生産効率
1枚パーツの方は、裁断も縫製も一手間減るわけですから、生産効率が上がります。一方でスプリットヨークは、縫製時、「柄の突き合わせ」にもかなり気を遣いますので、やはり手間が増えます
また、裁断時のマーキング(生地幅に全パーツを最小限ではめこむ)の効率化も考慮されます。1枚パーツに比べて、スプリットヨークのバーツは小さいので、パーツとパーツの隙間にはめ込みやすいというメリットもあります。一方、バイアス地になり、スペースは取るので生地幅次第では悪影響す・・この作業により、1着の用尺が変わってくることがあります
逆に言えば、用尺を考慮して、ヨークの幅を調整する事もあります。幅の狭いヨークが時にありますが、これは、その線が濃厚でしょう。
最後に、着用感
① 1枚ヨークが、前肩の接ぎ部が、ハーフバイアス(斜め)になるため、伸びやすくなる傾向がある一方、スプリットヨークは、前肩の接ぎ部にタテ地を通せる為、伸びる事が無く、型崩れを防いでくれます。
② 僧帽筋:肩回りの筋肉に対して、地の目の向きがハーフバイアスになり、立体についていきすく、馴染み易くなります。1枚ヨークの場合は、僧帽筋に対して、ヨコ地の目が通り、横=腕の動きに対して、タテ地の目が通るので、動きに対して融通が利かなくなります。
scyltでは、borrelli とは異なり、無地でもスプリットヨークを採用していますが、理由はこの3番目のポイントに拠ります。
また、ディテールでは、このヨークパーツにハンド工程が2つ入ってきます
1つは、表側のヨーク前肩部、ミシンで地縫い&「星留め」ハンドステッチが、5~7mm間隔で施されています (画像は、元の解体シャツでは見づらかったのでborrelliの別柄シャツ)
2つ目は、肌側のヨーク、「まつり縫い」で留めつけられており、肌馴染みをより柔らかいものにしております。30mm・12~13針で、衿と同じようなまつり間隔です
ヨークに挟みだされる身頃のパーツはこんな形状です。
サイズ:38 肩幅:44㎝ 身幅:105㎝ (前半身:約25㎝ 後半身:約27.5㎝)
前身が大きく取られ、前の袖ぐりがバストトップに向かって大きくくられているのが特徴的です。以前のブログで、ジャケットに近い袖ぐりの説明をしましたが、それに近いアームホールですね
この前身のクリの湾曲が、脇に刺さることなく腕の可動域を上げるわけです
ちなみに、小生のBorrelli歴最古参、20年前くらいにUAで購入したBorrelliのシャツでは、
サイズ38 肩幅:45㎝ 身幅107㎝ (前半身:27.5cm 後半身:26㎝)と前身と後身のバランスが逆転しています
同じBorrelliでも、時を経てパターンを変えてきたか・・・ショップによって、別注パターン・日本サイズ仕様だったり、イタリー本国サイズそのまま輸入だったり、パターンが異なるという事かな・・
ちなみに、
前身と後身のバランスの問題は、脇線の接ぎ位置をどこにするかと言う問題=脇のウェストシェイプをどの位置でとるかに置き換えられます
これは、以前書いたことのある、身体のカテゴリー、「反身体」か「猫背体」により調整されるべきで、どちらかが正しいという事はありません。
既製品含め、一般的には、腕を前に回す動作の分量確保のために、後身を大きくすることが多いですが、反身体の人だと生地が余ってバックスタイルがキレイにならない事がままあります。
その意味では、着心地・運動量の確保に影響すると言うよりは、シルエットに影響するポイントと言えるかと思います。
逆に、アームホールと袖山は着心地・運動量に直結する大切なポイントですね
袖付けはもちろん、ナポリ仕様の後付けタイプ。下の写真は、脇下:身頃と袖付けのずらし12㎜。袖が前に振れるように、身頃に対して袖を斜めに取り付ける事が目的です。
ナポリ系シャツでは、この仕様も当たり前ですが・・
実は、日本では、この仕様が出来る工場さんはかなり限られています
そもそも
ドレスシャツの量産は、工程数が多く、縫製の習熟度が求められ、またアタッチメントや専用機械が必要なので、全ての縫製工場が出来るわけでは無く、基本的にはシャツ専門工場が受け持ちます
その中でもさらに、この袖の後付け仕様に対応している工場は限られます
大きい工場程、完全にベルトコンベア式に生産体制や「自分たちの仕様」が出来上がっているので、それに外れる事を無理してやろうとはしないわけです
日本の既製品シャツメーカーで、この対応をしている所があれば、かなりこだわったメーカーと言えると思います。中ではHITOYOSHIさんが有名ですね
すぐ脱線してしまいますが、
ナポリ系を代表するborrelli、アームホールの縫い代処理は、もちろんハンド工程です
脇下部分はカーブがきついので、縫い代幅も5~6㎜に抑え、袖山に向かってだんだん太くなりトップは16mmまで広がります。肩に乗っかる部分は、縫い代の段差を感じないように、よりフラットにしたいという意図かと思います。
アームホールのまつり縫いは30㎜間 7~8針 袖山部はギャザーを抑える分 30㎜間 9~10針と細かくなっています
一方
地縫いは 30㎜間 12~13針 襟ぐりと同じ
脇の地縫いは、30㎜間 14針 折り伏せ縫いのステッチは、25針
たった1~2針の違いですが、
身頃の接ぎ、脇縫いは、耐久性を重視し、アームホールや襟ぐりなど、動きに関わる部位は少し融通が利くように粗めに縫う、 意図的に部位によって変えています
量産工場はパーツ分業制なので、それぞれのパーツ縫いに対して、最もふさわしいミシン運針の設定をしているという事ですね
こうした一つ一つの細かいこだわりが、クオリティの土台を支えているという事が分かります
またまた長くなってしまったので、今回はこの辺で。袖はまた次の回に・・